裁判所速記官制度に関する意見書
 
栃木県弁護士会 会長  高木 光春
平成20年9月24日
第1  意見の趣旨
   裁判における証人尋問等の証拠調べの結果を記録するについて、裁判所速記官による速記録の利用を増進せしめる措置を求める。
   
第2  意見の理由
  1  裁判における証人尋問等の証拠調べの結果は、口頭弁論調書を作成することにより記録化される(民訴法160条、民訴規則67条、刑訴法48条、刑訴規則44条)。
 証人等の尋問調書は、事実認定の基礎となるものであり、公正な裁判を実現するために極めて重要な資料である。とりわけ、事実関係が複雑な、あるいは事案が重大な事件においては、証人等尋問のやりとりを逐語的に記録化した逐語録調書の重要性は大きい。
  2  逐語録調書には、速記官による速記録と、録音テープの反訳を民間業者に委託する録音反訳調書がある。
 録音反訳方式が本格的に導入されて数年が経つが、以下に述べるような速記録の優れた特性はまったく色褪せていない。ますます複雑化する社会において、司法における国民の権利保護を期す観点からは、速記録の利用を増進して公正な裁判の実現に資するため、速記官の人員増大等の適切な措置をとるべきであると考える。
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  速記録の優れた特性として、次のような点が上げられる。
録取者である速記官が法廷に立会していることから、
 言語化されない表現でも録取可能である。
 録音状態とは関わりなく、不明瞭な供述でもその場で確認できたり、口元を見て聞き分けられたりする。
 事前・事後の確認作業によって専門用語・固有名詞・法律用語でも正確に録取できる。
 同時発言でも対応できる。
 多数関係者がいるときでも発言者の特定が容易である。
 記録に残す意味のないやりとりは始めから記録化しないなどの対応が可能であり、全逐語録とは違い、繰り返 し・言い直しなどは適切に省かれ、読みやすい記録が作成される。
 尋問途中でも、必要があるときは、前の供述を訳読して供述内容を確認することができる。
 音声をその場で記録した調書であるので、裁判官の訂正命令に服することもないとされ、(裁判官の記憶の誤りによる誤謬を排することができ)内容の正確性が保たれる。
 録取者である速記官には公務員としての守秘義務がある。裁判は公開が原則であるとはいえ、訴訟であることの性質上、関係者が一般に知られたくない情報が多くあり、反訳外部委託方式により速記録の方が秘密保持性において優れている。
  4  一方、録音反訳外部委託方式には、速記録方式に比較して幾多の弱点があると言わざるを得ない。
  まず、反訳の技術的正確性が将来にわたって担保されるかどうか未知数である。発言者の方言や発言の特徴などへの対応性について速記録に劣ると思われる。身振りを伴う証言等について適切に再現できるかどうか疑問である。指示代名詞や書証・図面を示したやりとりでは、尋問技術の巧拙に調書の出来が左右されるおそれがある。適切な調書を作成するために書証等をコピーして調書作成側に渡す必要性も考えられるが、それら記録の管理が適切になされるかどうか、の問題もある。調書の再現性をめぐって、外部業者と書記官の間で調整をする必要があり、書記官の事務負担が多大となるおそれが強い。録音反訳業者に秘密保持を期待できるかどうかの問題がある。調書作成のスピードは明らかに速記録の方が速い。
  5  以上のとおり、逐語録調書の作成方法として、速記録が録音反訳方式に比し優れていることは明らかであり、速記録利用の一層の拡充に努力すべきである。
以上