栃木県弁護士会からのお知らせ

司法試験予備試験の受験資格制限等に反対する会長声明

第1 声明の趣旨
司法試験予備試験の受験資格の制限、及び予備試験合格者の司法試験合格者数を制限することに反対する。
第2 声明の理由
1 司法試験を受験するためには、法科大学院課程を修了するか、司法試験予備試験に合格することが必要である。
 司法試験予備試験は、法科大学院を経由しない者にも法曹への道を確保するという目的のもとに2011年から実施されている。
2 法科大学院制度は、多様な人材を法曹界に取り込むこと等を目的とし法曹養成制度の中核として位置づけられている。しかし、現実には、法科大学院志望者が激減しており、法曹志望者の法科大学院離れが顕著となっている。2004年の法科大学院入学者数は5、767人であったのに対し、2014年の入学者数は2、272人と激減しており、入学者を募集した法科大学院67校のうち61校が定員割れをしており、うち44校の入学者は定員の5割未満となっている。
 これに対して、予備試験合格者は、2012年には司法試験合格者58名(合格率69・2%)、2013年には司法試験合格者120名(合格率71・8%)と、法科大学院修了者と比較して遙かに高い合格率となっており、予備試験の受験者も増加傾向となっている。
3 そのため、法曹養成制度改革顧問会議において、予備試験について、受験資格として資力が乏しいことや、社会人経験を要件とする案、一定年齢以上であることを要件とする案、法科大学院在学生には受験を認めない案が、対応方策として検討されている。また、政党・経済界などからも、予備試験を制限することが提言されている。さらに、京都大学、慶應義塾大学、中央大学、東京大学、一橋大学、早稲田大学の各法科大学院が連名で、予備試験の試験科目等の見直し、予備試験合格者数を拡大させない運用、予備試験の受験資格制限を求める緊急提言を行った。
4 しかし、法科大学院の入学者激減、法科大学院卒業者の司法試験合格率低迷は、予備試験のあり方に問題があるからではない。法曹志願者に経済的、時間的負担を課し、法科大学院のない地域に居住する者や有職者の受験機会を阻害するなど大きな参入障壁となっている現行の法科大学院制度と、司法試験合格者を2000人以上出し続けた結果深刻な就職難を招来し、弁護士の収入減等による職業的魅力の低下の理由により、法曹志願者を質・量ともに縮小させていることが問題の本質である。したがって、予備試験に制限を加えても法科大学院の人気回復にはつながるものではない。
5 また、以下に述べる理由により、予備試験について受験資格制限を設け、あるいは予備試験の合格者数を人為的に制限することは許されないと考える。
 所得制限については、所得基準の問題や財産状況の把握等の技術的不可能性から制度設計当初からその導入が見送られたものである。法科大学院在籍者を受験させないとすると、法科大学院受験を前に法科大学院卒業に要する期間と費用の負担を回避し、早期に就業等の見通しを立てようとする誘因が働き、法曹を志す者が法科大学院を受験することなく最初から予備試験を受験する者が増加することとなり、かえって法科大学院を敬遠することになる。年齢制限をすると、例えば、法曹を志すものの、一定年齢までにそれが叶わなければ、法曹外の就職先を確保したいという将来設計を有している志願者に対して、法曹資格取得の途を事実上閉ざすことになり、若年層の法曹志望者を減ずる危険を招来する。
 また、以上の実質上の弊害の他に、年齢や所得による制限については、国家試験である司法試験の受験資格は試験の成績や能力等にかからしめるべきであるから、年齢や所得の多寡だけで同資格を制限することには合理的な根拠を見いだすことは出来ず、憲法違反の疑義さえあるというべきである。
 さらに、地方の法科大学院の募集停止が相次いでおり、募集を継続している法科大学院が大都市に偏在している現在、予備試験の受験資格を制限することは、事実上、地方の法曹志望者の門戸を閉ざす結果となる。
6 平成21年3月31日の閣議決定において、「法曹を目指す者の選択肢を狭めないよう、司法試験の本試験は、法科大学院修了者であるか予備試験合格者であるかを問わず、同一の基準により合否を判定する。また、本試験において公平な競争になるようにするため、予備試験合格者について、事後的には、資格試験としての予備試験のあるべき運用にも配意しながら、予備試験合格者にしめる本試験合格者の割合と法科大学院修了者に占める本試験合格者の割合とを均衡させるとともに、予備試験合格者数が絞られることで実質的に予備試験受験者が法科大学院を修了する者と比べて、本試験受験の機会において不利に扱われることのないようにする等の総合的考慮を行う。」とされている。
 この閣議決定を踏まえるならば、予備試験合格者の本試験合格率が、法科大学院修了者の本試験合格率を遙かに上回っていること、予備試験志願者数が、法科大学院志望者数を上回る見通しとなっていることからすれば、予備試験合格者に占める本試験合格者の割合に制限を加えるべきではない。司法試験においては、予備試験合格者と法科大学院修了者との間に自由競争が確保されることこそが、優秀な法曹志願者を確保することに繋がるものである。
7 したがって、予備試験の受験資格を制限したり、予備試験合格者の司法試験合格者数を制限しようとする動きは、あるべき法曹養成制度に逆行するものであり、法曹志願者の更なる減少に直結するものであり、許されない。

以上
2014(平成26)年8月28日
栃木県弁護士会
会 長 田中  真