栃木県弁護士会からのお知らせ

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する意見書

第1 意見の趣旨
カジノ(民間賭博場)の設置を推進することを定める「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」に反対し、その廃案を求める。
第2 意見の理由
1 はじめに
 国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に所属する有志の議員によって,「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(以下「カジノ解禁推進法案」という。)が今国会に提出され、継続審議とされている。
 しかし,この法案は,経済効果のみが喧伝され,社会に対する深刻な影響等についての検討がなされていない。法案10条自体がカジノ解禁推進法案のはらむ問題を掲げているが,その方策も何ら具体的なものではなく,賭博及び富くじに関する規定(刑法第185条以下)の違法性阻却事由も何ら認められないため,到底容認できない。
2 カジノ解禁推進法案の問題点
 (1)カジノによる経済効果への疑問、地域経済への弊害
 カジノ推進の立法目的に経済の活性化が掲げられているが,その経済効果は,十分な検証の上に評価されるべきである。韓国,米国等ではカジノ設置自治体の人口が減少したり,また,多額の損失を被ったという調査結果も存在する。地域経済自体がカジノ依存体質に陥れば,将来的なカジノからの脱却はおろか,副次的弊害を抑え込むためにカジノ規制が必要となった場合でも,自治体財政を脅かす行為として忌避されてしまいかねない。
 (2)暴力団対策上の問題
 暴力団がカジノへの関与に強い意欲を持つことは容易に想定される。いかに法整備をしようとも,暴力団の関与は,事業主体に対する出資や従業員の送り込み,事業主体からの委託先・下請への参入等により十分考えられる。法案10条でもその危惧を示しながら,何らの具体的方策がとられていない。
 (3)カジノ利用に伴い悪影響を受けざるを得ない事象
 法案10条では,カジノ入場者がカジノ利用に伴い悪影響を受けることが指摘されているが,その典型的な例がギャンブル依存と多重債務問題である。
 ギャンブル依存症の問題は深刻であって,慢性,進行性,難治性で,放置すれば自殺に至ることもあるという極めて重篤な疾患であるのはもはや常識である。平成24年に閣議決定された自殺総合対策大綱においても,病的賭博は自殺ハイリスク疾患として対策が講じられている。平成20年の厚生労働省による病的賭博(ギャンブル依存症)の調査によれば,成人男性の9.6%,成人女性の1.6%が病的賭博とされ,世界各国と比べてその発症率は極めて高い。カジノ設置によってさらにギャンブル依存症の患者が増加することは優に予想されるところである。
 さらに多重債務問題についても,平成18年の貸金業法改正等,官民一体となって取り組まれてきた一連の対策によって,多重債務者が激減し,結果として破産者等の経済的に破綻する者,経済的理由によって自殺する者も減少してきた。しかし一方,破産した者のうちギャンブルが原因と見られる者が5%程度にのぼる(日本弁護士連合会「破産事件及び個人再生事件記録調査」)という破産調査の結果をみると,カジノの合法化は,これら一連の対策に逆行して,多重債務者を再び増やす結果をもたらす危険が大いにある。

 (4)青少年や児童らの健全育成への悪影響
 合法的賭博が拡大することによる青少年の健全育成への悪影響も必至である。とりわけ,「IR方式」は,家族で出かける先に賭博場が存在する方式であるから,青少年らが賭博に対する抵抗感を喪失したまま成長することになりかねない。
 さらに,カジノができれば,当該地域は住環境・自然環境・教育環境の悪化は免れず,地域にいる,青少年よりももっと低い児童らへの悪影響が大きいことも十分考えられる。

 (5)民間企業の設置,運営によることの問題
 カジノ解禁推進法案では,民間企業が運営するカジノ施設における不正行為の防止や運営に伴う有害な影響の排除につき「必要な措置を講ずるものとする」としながら(法案10条),その措置等は何ら具体的ではない。そもそも民間企業の設置,運営にかかるカジノにおいて公共の信頼を担保することは困難である。
3 まとめ
 以上のとおり,日本で初めて完全な民間賭博を認めるカジノ解禁推進法案が成立すれば,刑事罰をもって賭博を禁止してきた立法趣旨が損なわれ,ギャンブル依存症の増加や多重債務問題の再燃,青少年等の健全育成の阻害等の様々な弊害をもたらすことは必至である。
 よって,当会は,カジノ解禁推進法案に強く反対の意見を表明し,意見の趣旨記載のとおりカジノ解禁推進法案の廃案を求めるものである。
2014(平成26)年8月28日
栃木県弁護士会
会長 田中 真