栃木県弁護士会からのお知らせ

司法修習生に対する給費制維持を求める決議

 本年11月から、司法修習生に対し給与を支給する制度(以下「給費制という」)が廃止され、給与の支給の代わりに希望者に対して修習資金を貸与する制度(以下「貸与制」という)が実施されることとなっている。しかし、栃木県弁護士会は、貸与制の実施に反対し、給費制の維持を強く求める。
 
 司法修習制度は、司法試験合格者に対して行われる約1年間の研修であり、法曹として必要とされる高度の専門的知識と職業論理の養成を目的とする。この目的を達するため、司法修習生は、兼業が禁止され、修習に専念する義務が課されるが、これを経済的に支えるのが給費制である。給費制は、司法修習生が経済的事情を危惧せずに司法修習に全力を尽くすことを保障するものであり、修習専念義務と表裏の関係をなす。それだけではなく、給費制は、経済的に恵まれない者であっても資質と能力があれば法曹となれることをも保障するものであり、これまで社会の幅広い層から有為で多様な人材を法曹として確保することに貢献してきた。法曹は司法権の担い手であり、その職務は国民の権利義務に直接関わり、公共的正確を有する。法曹の職務の公共性にかんがみれば、質の高い法曹を養成し確保することは国の責務というべきであり、これまで給費制が維持されてきたのもそのためである。
 
 ところで、新司法試験制度下の司法修習生は、法科大学院卒業後に司法試験を受験するので、司法修習生になる以前に、法科大学院の授業料や在学中の生活費など大きな経済的負担を強いられる。日弁連が行ったアンケート調査によれば、回答した司法修習生(予定者)は平均約320万円の債務を負担しており、最高で1200万円に上る者もいた、とのことである。給費制が廃止されれば司法修習生の経済的負担は一層大きなものとなり、資質と能力をもつ人材が、経済的事情によって法曹への道を断念する事態の発生が強く懸念される。一部の経済的余裕のある者しか法曹になれないとなれば、有為で多様な人材を法曹界に確保することは困難となる。
 
 給費制を廃止する裁判所法改正の国会審議の過程では、衆参両院で「給費制の廃止及び貸与制の導入によって、統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと」との附帯決議が採択されたが、現状で給費制を廃止することは、まさに立法時に懸念された「経済的事情から法曹への道を断念する事態を招く」ことにつながるのである。
 
 弁護士は在野法曹ではあるが、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、刑事、民事及び家事等の事件を通じて司法権の一翼を担い、国選弁護、法律援助事件、各種無料法律相談、人権活動、公益的事件への取り組みなど、公共性・公益性の高い活動にも積極的に取り組んできた。しかしながら、給費制が廃止され、弁護士になるまでに多額の経済的負担が要求されることになれば、弁護士になっても、心ならずも公的使命を果たし得なくなるおそれがある。法曹人口の激増の影響によって弁護士志望の司法修習生が置かれた厳しい就職状況やその後の勤務状況に照らせば、このような懸念は決して抽象的なものではなく、具体的かつ深刻なものとして受け止めなければならない。
 
栃木県弁護士会では、2009年7月23日、司法修習生に対する給費制の維持を求める会長声明を出しているが、その後も状況は変化せず、このままでは、貸与制への移行がなされる状況にあるため、改めて会員の総意として決議をなすものである。
 
 よって、栃木県弁護士会は、国会、政府、最高裁判所に対し、本年11月から実施予定の司法修習生への修習資金の貸与制への移行を中止し、これまで実施されてきた給費制を継続させるための措置を講じることを強く求める。
 
  2010年(平成22年)5月22日
栃木県弁護士会定時総会