栃木県弁護士会からのお知らせ

特商法2016(平成28)年改正における5年後見直し規定に基づく同法の改正を求める意見書

第1 意見の趣旨
 当会は、国に対し、特定商取引法2016(平成28)年改正における附則第6条に基づく「所定の措置」として、以下の内容を含む法改正等を行うことを求める。
1 訪問販売について
 (1)拒否者に対する訪問勧誘の規制
 訪問販売につき、家の門戸に「訪問販売お断り」と記載された張り紙等を貼付しておくなどの方法により予め拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにすること。
 (2)勧誘代行業者の規律
 訪問販売につき、その契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者(いわゆる勧誘代行業者)に対しても、特定商取引法上の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすること。
2 通信販売について
 (1)インターネットを通じた勧誘等による申込み・契約締結についての行政規制、クーリング・オフ及び取消権
 通信販売業者がインターネットを通じて消費者を勧誘し、消費者が契約の申込みを行い又は契約を締結した場合について、行政規制を設けること、並びに消費者によるクーリング・オフ及び取消権を認めること。
 (2)解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備義務
 通信販売業者がインターネットを通じて申込みを受けた通信販売契約について、契約申込みの方法と同様のウェブサイト上の手続による解約申出の方法を認めること及び迅速・適切に解約・返品に対応する体制を整備することを義務付けること。
 (3)連絡先が不明な通信販売業者及び当該事業者の勧誘者を特定する情報の開示請求権(詐欺等加担者情報開示請求権)
 特定商取引法第11条第5号及び同法施行規則第8条1号の表示義務を満たさない通信販売に関する広告又はインターネット等を通じて行った勧誘により自己の権利を侵害されたとする者は、SNS事業者、プラットフォーマーその他の関係者に対して、通信販売業者及び勧誘者を特定する情報の開示を請求できるとすること。
3 連鎖販売取引(後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加)について
 特定利益収受の契約条件を設けている事業者が、連鎖販売取引に加入させることを目的として特定負担に係る契約を締結させ、その後に当該契約の相手方に対し特定利益を収受し得る取引に誘引する場合は、特定商取引法の連鎖販売取引の拡張類型として規制が及ぶことを条文上明確にすること。

第2 意見の理由
1 訪問販売について
 (1) 拒否者に対する訪問勧誘の規制(意見の趣旨1(1)について)
 訪問販売は、自宅を舞台として行われるが、自宅は取引の場ではなく、消費者の要請無く行われた場合、多くの消費者にとって迷惑であるばかりか、不意打ち的に消費者が不本意な契約をしてしまうことも少なくない。
消費者の9割以上が訪問販売を望んでいないという状況にあることや、判断能力の低下などにより勧誘を断ることが十分に期待できない消費者の存在等を考えると、訪問販売については、消費者が個別に要請・同意をした場合にのみこれを許容することが合理的であると考えられる。少なくとも、消費者が勧誘を事前に拒絶したにもかかわらず訪問販売を行うことは許されるべきではない。
 この点、特定商取引法第3条の2第2項は、消費者が契約を締結しない旨の意思を表明した場合に、事業者が勧誘を行うことを禁止しているが、消費者庁は、「訪問販売お断り」と記載された張り紙等(以下「ステッカー」という。)を家の門戸に貼付することについて、意思表示の対象や内容、表示の主体や表示時期等が必ずしも明瞭でないとして、同項の「契約を締結しない旨の意思」の表示には該当しないとの解釈を示している。
 しかし、このような解釈を採用すると、消費者があえてステッカーを貼付しているにもかかわらず勧誘に対応にすることを強いられることになる。また、対応した結果、応諾させられてしまう危険性もある。加えて、販売業者に個別に拒絶しなければならない点で不便である。
 そもそも、同規定は、意思の表示方法として、文書その他の表示によるものを排斥していない。また、多くの自治体が消費生活条例等においてステッカーに効力を認めているところ、消費者庁もこれらの条例の効力を認めており、その解釈は一貫性を欠くものとなっている。
 これらの点に鑑み、現在の消費者庁の解釈は直ちに改められるべきであり、解釈上の疑義を残さないために、ステッカーにより拒絶の意思を表明した場合が、特定商取引法第3条の2第2項の「契約を締結しない旨の意思を表示した」場合に該当することを条文上明らかにするべきである。

 (2)勧誘代行業者の規律(意見の趣旨1(2)について)
 特定商取引法における訪問販売についての行為規制は、「販売業者」及び「役務提供事業者」(以下「販売業者等」という。)であるが(同法第2条第1項参照)、近年、訪問販売にあっても、営業活動それ自体のアウトソーシングの活用が進み、勧誘行為を他の業者に委託する例が増えている。
 勧誘行為の媒介・代理を受託したいわゆる勧誘代行業者に行為規制が及ぶかについては、「販売業者等」の意義との関係で議論が有り得るところであり、どのような場合に規制が及ぶか、必ずしも現行法上明らかにされていない。
 そもそも、訪問販売において、その規制の核心は、その販売方法である訪問という勧誘方法にあるのであって、その勧誘行為そのものを直接行っている事業者を行為規制の埒外とすることは妥当ではない。
 したがって、訪問販売につき、その契約の締結の媒介又は代理の業務の委託を受けた者に対しても、特定商取引法上の行為規制が及ぶことを条文上明らかにすべきである。

2 通信販売について
 (1)インターネットを通じた勧誘等による申込み・契約締結についての行政規制、クーリング・オフ及び取消権(意見の趣旨2(1)について)
 通信販売については、他の特定商取引法の取引類型と異なり、再勧誘の禁止や威迫困惑行為の禁止等の行政規制が定められておらず、また、クーリング・オフや不実告知による取消権等も設けられていない。
 特定商取引法の通信販売は、元来、消費者がカタログを閲覧して申込みをする形態やインターネットで自らがウェブサイトを閲覧し、吟味した上で申込みをする形態が想定されていた。しかし、近年、通信販売で急増している消費者トラブルにおいては、消費者が自ら積極的に通信販売業者のウェブサイトを閲覧して申込みをするのではなく、消費者が日常的に利用しているSNSを通じて事業者からメッセージが送られてきたり、SNS上の広告を見たことがきっかけでインターネットを通じて事業者やその関係者から勧誘されたりして、申込みに誘導される例が多くみられる。国民生活センターが、「「定型文を送信するだけで月に100万円から200万円稼げる」というSNSの広告を見て副業サイトにアクセスし情報商材を購入したあと、高額なサポートプランの契約をした」という相談事例などを取り上げ、「大幅な値引きや低価格、商品の効果を過剰にうたうSNS上の広告や、「簡単にもうかる」「損はしない」などの投稿やメッセージはうのみにしないようにしましょう。SNS上の広告をきっかけとしたトラブルに多い通信販売にはクーリング・オフ制度がなく、事前にしっかり内容を確認することが大切です。」などと注意喚起していることからしても、取消権の新設は必須である。
 SNSなどによる勧誘は、消費者からすれば、突然一方的に示されるものであって不意打ち性が高く、また、スマートフォンなどを用いた一対一でのやりとりが中心となり、密室性が高い点で、訪問販売や電話勧誘販売と同様の問題点がある。
 したがって、インターネットを通じて勧誘が行われる場合には、通信販売においても、行政規制やクーリング・オフ及び不実告知等の取消権を規定するべきである。

 (2)解約・返品に関するインターネット通信販売業者の受付体制整備義務(意見の趣旨2(2)について)
 現在、通信販売業者による解約・返品に関する受付体制整備義務や解約・返品の申出方法(解約受付方法)についての規制は特段存在しない。
 しかし、インターネット上の通信販売に関するトラブルにおいて、ウェブサイト上で購入の申込みを受け付けている通信販売業者が、ウェブサイト上での解約受付体制を設けていないケースや、近年増加しているサブスクリプション契約でも解約方法が分からない等のトラブルが発生している。また、同様に「電話による解約のみ受け付ける」旨を表示しておきながら、消費者が架電してもいっこうに繋がらず、解約ができないケースも見受けられる。
 そこで、インターネットを利用した通信販売において消費者が解約を希望する場合、契約申込みと同様の方法(ウェブサイト上の手続き)による解約申し出の方法を定めることを通信販売業者に義務付け、迅速・適切に解約・返品に対応する体制を整えさせることが必要である。

 (3)詐欺等加担者情報開示請求権(意見の趣旨2(3)について)
 インターネットやSNS上の詐欺的な広告や勧誘をみて通信販売を利用した消費者が被害を被った場合でも、その広告上に通信販売業者の氏名や名称、住所などが十分に記載されていないことから、訴状における当事者の特定ができず、被害回復を図れないケースが多くみられる。
 したがって、連絡先が不明な通信販売事業者及び当該事業者の勧誘者等により自己の権利を侵害された者は、SNS事業者、プラットフォーマー等に対し、通信販売業者及び勧誘者を特定するための情報の開示を請求できるようにすべきである。

3 連鎖販売取引(後出し型連鎖販売取引の適用対象への追加(意見の趣旨3について))
 特定商取引法33条1項は、「連鎖販売取引」の定義について、「特定利益を収受し得ることをもって誘引し」と規定している。そのため、特定負担に係る契約において特定利益が内容となっていない場合、その実質が連鎖販売取引に該当するにも関わらず、上記の連鎖販売取引の定義に該当するか否かが争われる場合がある。
 また、特定利益に関する説明が後出しにされる結果、消費者が、マルチ契約締結の危険性を同契約の締結時に認識できなくなり、マルチ契約に巻き込まれないようにする予防も難しくなる。
 したがって、後出し型連鎖販売取引を、現行の連鎖販売取引の定義に含めるべきである。
以上

2023(令和5)年3月24日
栃木県弁護士会
会 長 安 田 真 道