栃木県弁護士会からのお知らせ

世界人権デーを迎えるにあたっての会長声明

 1948(昭和23)年12月10日、国連総会で、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利とを承認することは、世界における自由、正義及び平和の基礎であるので、人権の無視及び軽侮が、人類の良心を踏みにじった野蛮行為をもたらし、言論及び信仰の自由が受けられ、恐怖及び欠乏のない世界の到来が、一般の人々の最高の願望として宣言された」(前文)などと規定する世界人権宣言が採択された。
 1950(昭和25)年12月4日の国連総会で、12月10日を「人権デー(Human Rights Day)」とし、加盟国などに人権思想の啓発のための行事を実施するように呼びかけている。
 全30条からなる人権宣言は、すべての国のすべての人が享受すべき基本的な市民的、文化的、経済的、政治的および社会的権利を詳細に規定している。
 「世界人権宣言」の規定は、広く受け入れられるだけでなく、国家の行為を測る尺度としても利用され、世界人権宣言は多くの学者によって一般に国際慣習法の重みを持つものだと考えられている。多くの新しく独立した国は、基本法もしくは憲法の中で世界人権宣言を引用し、またはその規定を組み込んでいる。
 近代立憲主義憲法は、個人の権利・自由を確保するために国家権力を制限することを目的とし、憲法が最高法規であるのは、その内容が、人間の権利・自由をあらゆる国家権力から不可侵のものとして保障する規範を中心として構成されているからである。日本国憲法の基本的人権の規定も、公権力との関係で国民の権利・自由を保護するものであると考えられ、特に自由権は、国家からの自由であると言われている。
 ところが、これまで、日本では憲法の人権規定に抵触する疑いのある立法が国会審議され、可決成立してきた。これに対し、当会では、人権保障の観点から、問題があることの指摘をしてきたため、世界人権デーを迎えるにあたり、振り返ることにした。
 2013(平成25)年9月17日、当会は、特定秘密保護法案に対し、行政機関による恣意的運用を防ぐことができず、特に秘匿することが必要でない情報まで主権者たる国民に知らされない結果となり、国民の知る権利を侵害する危険が大きいことなどを問題視とする会長声明を発表した。
 2016(平成28)年10月27日、当会は、改正組織的犯罪処罰法(いわゆる共謀罪を創設する法律)案に対し、憲法上保障された思想・良心の自由、表現の自由、結社の自由を大きく侵害する可能性が高く、さらには、共謀ないし計画は2人以上の者の合意であるから、その捜査対象は市民の会話、電話、ファックス、電子メールなどになるため、市民のプライバシーが侵害されることが常態化しかねない危険性をはらんでいることなどを問題視とする会長声明を発表した。
 しかし、いずれについても、人権規定に抵触する疑念が払しょくされずに可決成立した。
 さらに、昨今、社会的課題として取り上げられることが多くなった選択的夫婦別姓については、2010(平成22)年3月17日、「家族法の差別的規定改正の早期実現を求める会長声明」を発出し、その声明のなかで、「1996年、法制審議会は、選択的夫婦別姓等を提案する民法改正案を答申したが、現在にいたるも法改正が実現していない」「婚姻後の夫婦の同姓を強制しているのはもはや先進国では日本のみである」と述べてきたが、今なお、夫婦同氏制度が採られたりして、自己決定、幸福追求権が不十分な状態にある。また、法律婚に対する障害という点では、2024(令和6)年10月30日、東京高等裁判所は、同性間の人的結合関係について、配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定(=婚姻の届出に関する民法739条に相当する規定)を設けていないことは、個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益について、合理的な根拠に基づかずに、性的指向により法的な差別的取扱いをするものであって、憲法14条1項、24条2項に違反すると判断している。
 私たちは、世界人権デーを迎えるにあたり、日本国憲法下でも、人権保障の観点から疑念がある法律が制定され、あるいは、十分な人権保障がされずに困難を抱えている方がいることを再認識し、国に対し、人権保障や人権侵害の解消を求めることが必要である。
 当会は、基本的人権の擁護、社会正義の実現に向けて、立憲主義における「人権」とは、公権力との関係で国民の権利・自由を保護するものであることを伝え、積極的な活動をしていく決意であることを表明する。
以上

2024(令和6)年11月28日
栃木県弁護士会   
会長 石 井 信 行