栃木県弁護士会からのお知らせ

割賦販売法の改正に関する会長声明

 判断能力が低下した高齢者等を狙う次々販売などの消費者被害は後を絶たない。高齢者等が被害者となる悪徳商法の代金決済には、クレジットが多く用いられており、クレジットを利用することで加盟店(悪徳商法業者)、信販会社双方が利益を拡大できる土壌が生まれている。
 したがって、消費者被害根絶のためには、その土壌であるクレジットを規制する割賦販売法の改正が必要であり、以下の諸点を改正するよう意見を述べる。
 
(1)購入者の資力・収入等を無視したクレジットの組み過ぎつまり過剰与信の結果、多重債務に陥る事例が少なくない。
 現行割賦販売法38条は、割賦販売業者等に対し、信用情報機関を利用する等し、購入者の支払能力を超える与信をしないよう務めなければならないという過剰与信を防止する規定を置いている。
 しかし、この規定は努力義務に過ぎず、実効性がない。
 そこで、違反時には立替金支払い請求権を制限する民事的効果を定めて、規制を実効性あるものとすべきである。
 
(2)悪徳商法業者に対してクレームが生じても、現行法上は未払金の支払を拒絶できるだけであり(割賦販売法30条の4)、既払金の返還までは義務づけられていない。
 また、悪徳商法業者に対しクレームが多発しても、信販会社が加盟店契約を打ち切るなどの加盟店管理義務を負うかについては明確ではない。信販会社は、加盟店が不適正な営業をしていないか十分審査しておらず、問題顕在化までは加盟店との関係を解消しないが、販売契約とクレジット契約は、経済的には密接不可分であり、信販会社は加盟店の営業活動によって利益を得ている以上、加盟店管理義務は信義則上認められる。
 しかしながら、現行法の下では、問題が顕在化するまでの間、信販会社は割賦金を徴収することができることになっており、被害者救済が不十分であるし、抗弁対抗時の先後により救済の程度が異なるなど合理性に欠ける。
 そこで、現在通達で規定されている加盟店管理義務を割賦販売法上明文化し、違反に対しては既払金返還義務まで課すべきである。
 平成19年11月29日付け経済産業省産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会の報告書によると、特定商取引法において導入が予定されている過量販売取消権にクレジット業者の既払い金返還責任を認める方向で検討することが提案されたということであるが、過剰与信防止の観点から評価できる。
 しかしながら、上記報告書では、クレジット契約の既払金返還が認められる範囲が特定商取引法の対象となる取引に限定されていることから、クレジット被害者の救済としては未だ不十分な面があると言わざるを得ない。
 クレジットによる消費者被害をさらに実行的に防止するためには、既払金返還が認められる範囲を店舗販売や通信販売を含めたクレジット契約全体に拡大すべきである。
 
(3)現行法では、代金を2ヵ月以上の期間にわたり、3回以上に分割して受領するのでなければ規制対象外となる。また、規制対象となる商品及び役務は政令指定商品に限定されている。(指定商品制)。
 しかし、近時の悪徳商法には1回払いのクレジット契約や指定商品外の商品等を利用する脱法行為が見受けられるので、これらの要件は撤廃すべきである。
 この点、上記報告書では、割賦の定義及び指定商品制の抜本的な見直しが検討されており評価できる。
 
(4)悪徳商法被害の大部分が個品割賦購入あっせん取引(加盟店から購入・提供を受ける個々の商品・役務ごとにクレジットを組むもの)を利用している実態がある。
 そこで、上記報告書でも検討されているように、個品割賦購入あっせん取引を行うクレジット事業者はすべて登録制とし、行政規制権限を及ぼすべきである。
 以上のとおり、当会は、割賦販売法の抜本的改正を求めるものである。
 
2007年(平成19年)12月18日
 
栃木県弁護士会 会長  直井 勇