栃木県弁護士会からのお知らせ

少年法改正に反対する会長声明

 安倍内閣は、平成26年2月7日、少年法改正法案を閣議決定した。本改正法案は、少年に不定期刑を言い渡し得る場合において、有期の懲役または禁錮刑の長期の上限を10年から15年に、短期刑の上限を5年から10年に、18歳未満の少年に無期刑でのぞむ場合の代替有期刑について、長期の上限を15年から20年とすることで、厳罰化を押し進めたものである。また、国選付添人制度を必要的弁護事件にまで拡大したことに伴い、検察官関与対象事件も長期3年を超える懲役または禁錮にあたる罪にまで拡大するというものである。
 少年刑の厳罰化をしなければならない立法事実は全く存しない。少年による殺人等の凶悪犯罪は、少子化を上回る勢いで一貫して減少しているのは客観的事実である。しかしながら、平成12年の少年法改正以前から現在に至るまで、少年による凶悪犯罪が大幅に減少しているにもかかわらず、一部の凶悪犯罪が感情的かつ繰り返し報道されることもあってか、体感治安の悪化や、少年犯罪に対する偏見が一向に解消されない状態が続いている。少年刑の厳罰化の推進力となっている一つの要因が体感治安である。もとより立法事実は体感治安のようなあいまいな要因に左右されるべきではなく、統計資料の客観的分析を通して判断すべきである。このような見地からは、厳罰化を正当化すべき理由はない。
 また、成人の場合無期刑に続く刑が懲役30年とされているのに比べ、少年刑は無期刑に続く刑があまりに軽く、適正な量刑がなされていないとの指摘がある。しかしながら、可塑性のある少年に対し、その社会的抹殺を意味する死刑や、無期刑を科することのできる現行法を大前提とする議論の立て方が問題というべきである。長期間にわたる受刑が少年の社会復帰を著しく困難にする可能性があるところ、少年の社会復帰を厳罰化によって一層遅らせることを意味する本改正法案には到底賛成することはできない。
 当会は、平成25年4月24日付で「裁判員裁判の量刑に懸念を表明する会長声明」を出しているが、量刑判断を裁判員に委ねている現行裁判員法のもとで本改正法案が実現すれば、少年逆送事件における厳罰化に拍車がかかり、その懸念は一層強まることとなろう。
 次に、検察官関与制度は、平成12年の改正によって導入された制度であるが、これを必要的弁護事件にまで拡大することは大きな問題がある。
 少年法は、未成熟であって、可塑性のある少年に対しては、大人とは異なり刑罰ではなく保護を加えることをその目的としている(少年法1条)。少年審判はそのような目的を実現する手続きであるところ、検察官は刑事責任を求めることをその使命としており、本来少年審判の場には相応しくない存在である。検察官関与の拡大によって、対立当事者が攻撃防御を尽くすという刑事裁判類似の少年審判手続きが増えることになれば、少年審判が糾問化し、その根本が失われてしまうおそれがある。
 以上から、当会は国選付添人制度の拡大の点を除き、本改正法案には強く反対する。

2014年(平成26年)3月27日
栃木県弁護士会
会 長  橋 本 賢二郎