栃木県弁護士会からのお知らせ

裁判所速記官の養成再開を求める会長声明

 訴訟においては,当事者その他関係人の発言を,詳細かつ正確に記録することが要請される。裁判所法60条の2第1項が,「各裁判所に裁判所速記官を置く」と定めているのは,そのような要請に応えるためである。ところが,最高裁判所は,1998(平成10)年度から,裁判所速記官の新規養成を停止した。その結果,ピーク時には825名いた裁判所速記官は,2014(平成26)年4月1日現在,204名まで減少している。
 現在,裁判所速記官による速記録に代わる方法として,民間業者に委託して録音を反訳する「録音反訳方式」が採用されている。しかし,録音反訳方式では,調書の完成に日数を要するほか,専門用語に精通していない民間業者が反訳を行うため,誤字・脱字や意味不明な反訳が少なくない。また,実際に質問及び応答を聞いていない民間業者が反訳するため,不正確な調書が作成される恐れがある。このように,「録音反訳方式」により作成される調書の正確性には疑問がある。さらに,民間業者に反訳を委託することは,情報管理の観点からも問題がある。
 裁判員裁判においては,連日的開廷に対応するため,ただちに証言等の内容を確認する必要があることから,コンピューターの音声認識を利用したシステムが採用されている。しかし,音声認識の精度はきわめて低く,文字化が著しく不正確であるのが現状である。
 以上のとおり,「録音反訳方式」やコンピューターの音声認識を利用したシステムには,調書作成の迅速さや正確さの観点から重大な問題があり,このようなシステムの下で適正かつ迅速な裁判が可能であるのか,きわめて疑問である。
 また,聴覚障害者の裁判を受ける権利を保障するという観点からも,速記官による速記録の作成は不可欠であり,速記官の減少は,聴覚障害者の権利保障に反するものである。
 一方,速記官を利用する方法であれば,当日のうちに調書を作成することが可能であるし,法律用語に精通した速記官が,実際に法廷に立ち会ったうえで調書を作成するため,正確な調書の作成が可能であり,メリットが大きい。
 世界の多くの国でも,速記機械によるリアルタイム速記を行うことが主流となっている。最高裁判所が速記官の養成を停止したことは,このような世界の流れにも反するものである。
 よって,当会は,最高裁判所に対し,速やかに裁判所速記官の要請を再開するよう求める。

平成27年5月14日
栃木県弁護士会 会長 若狭 昌稔