栃木県弁護士会からのお知らせ

「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」における罰則の強化等に反対する意見書

第1 意見の趣旨
 当会は,以下のとおり,政府が2015年3月6日に提出した出入国管理及び難民認定法(以下,「入管法」という。)の一部を改正する法律案(以下,「本改正案」という。)に対し,反対する。
 1 罰則の強化について
 本改正案は,「偽りその他不正の手段により,上陸の許可等を受けて本邦に上陸し,又は第四章第二節の規定による許可を受けた者」等を,「3年以下の懲役もしくは禁錮若しくは300万円以下の罰金」に処する旨の罰則規定を新設するものである(法第70条1項)。このような罰則の強化に対しては,反対する。
 2 在留資格取消事由の拡充について
 本改正案は,所定の活動を継続して3か月以上行わないで在留している場合(現行法)に加え,所定の活動を行っておらず,かつ,「他の活動を行い又は行おうとして在留している」場合にも,在留資格取消を可能にするものである(法第22条の4第1項) 。このような在留資格取消事由の拡充に対しては,反対する。

第2 意見の理由
 1 罰則の強化について(法第70条1項)
(1) 罰則強化の立法事実が存在しない
 罰則強化の必要性について,政府は,2014年12月10日に閣議決定した『「世界一安全な日本」創造戦略』が,「不法滞在対策,偽装滞在対策等の推進」を掲げ,不法滞在者及び偽装滞在者の積極的な摘発を図り,在留資格を取り消すなど厳格に対応していくとともに,これらを助長する集団密航,旅券等の偽変造,偽装結婚等に係る各種犯罪等について,取締りを強化するとしていることを挙げる。
 しかし,不法残留者数は,1993年には29万人を超えていたが,現在では大幅に減少している。
 また,2013年末の中長期の外国人在留者は約169万人であるのに対し,上陸と在留関係手続での不正行為により在留資格を取り消された外国人の数は,2013年の1年間で200名弱にとどまる。
 以上のとおりであり,罰則強化の必要性が存在しない。
(2) 濫用の危険性
 法務省入国管理局の説明によれば,在留資格等不正取得罪および営利目的在留資格等不正取得助長罪は,過失犯ではなく故意犯であるから,申請代理業務を行った弁護士等が不当に処罰されることはないと主張する。
 しかし,故意犯であっても,未必の故意まで含むのであり,過失との区別は困難である。
 また,警察による安易な立件により,申請が結果的に真実ではなかった場合にも、弁護士,行政書士等の有資格者が故意に荷担したと疑われるなど、業務遂行に深刻な影響・萎縮効果を及ぼすおそれがある。
 さらに,「偽りその他不正の手段により」という構成要件はあいまいであり,申請書に記載した事項の真実性が証明できなかった場合にも処罰の対象となる恐れがある。真実か否かの判断が判断者により異なる事態も想定される。そのため,濫用的な告発により,申請者本人の他,本人の親族,雇用主,留学先の職員,弁護士や行政書士にも捜査が及び,多数の関係者に損害が生じる恐れがある。
 特に,入国管理法に関しては,書類が外国語で作成されている,外国での過去の細かい履歴を内容とする書類があり関係者への連絡が困難等の問題もあり,調査が困難な場合が少なくない。そのため,安易な立件や強制捜査が行われる危険がある。
(3) 難民認定申請を委縮させる危険性
 難民として本邦への入国を希望する者は,まず観光や親族訪問などを目的として入国審査官に告げ,「短期滞在」等の在留資格で入国した上で,難民認定申請を行う場合が多い。
 本改正案によると,このような場合,「偽りその他不正の手段により」上陸許可を得たとして,刑罰が科されることになる恐れがある。
 本改正案によれば,難民に該当することの証明があれば刑が免除されることとされている。しかし,本邦に入国した難民認定申請者が,難民であることの証明に失敗した場合には,処罰の対象となる恐れがある。そのため,本改正案は,庇護を必要とする難民に対し,難民認定申請を躊躇させるという効果を生じるおそれがある。


 2 在留資格取消事由の拡大について
 本改正案は,所定の活動を継続して3か月以上行わないで在留している場合(現行法)に加え,所定の活動を行っておらず,かつ,「他の活動を行い又は行おうとして在留している」場合にも,在留資格取消を可能にするものである(法第22条の4第1項)。
 本改正案によれば,就労等の在留資格を有する者が,退職等により所定の活動を行わなくなった場合,新たな勤務先を探す余裕もなく,直ちに在留資格を取り消される恐れがある。また,「行おうとしている」という要件は不明確であり,入管当局の主観的な判断によって在留資格が取り消される恐れがある。このように,本改正案は,外国人の地位を著しく不安定にするものである。
 在留資格が予定する活動を行わないものに対しては,在留期間更新の際の審査や,現行規定に基づく在留資格取消により十分対応可能であり,在留資格取消事由の拡大の必要性はない。


 3 結論
 以上の理由により,当会は,本改正案に対して反対する。
以 上

2015年5月14日
栃木県弁護士会 会長 若狭昌稔