栃木県弁護士会からのお知らせ

法曹養成制度の改善を求める総会決議

第1 決議の趣旨
 1 司法試験合格者数を当面1000名程度に減少させ、その間に、需給状況を調査し、更なる減員をなすべきである。
 2 司法試験の受験資格から、法科大学院の修了との要件を削除すべきである。
 3 仮に、法科大学院修了が要件として残る場合には、予備試験の制限はすべきではない。
 4 司法試験受験資格要件取得後5年間しか司法試験を受けられないとする受験制限を廃止すべきである。
 5 前期修習の復活を含め、研修所教育の充実強化を図るべきである。
 6 司法修習生の給費制を復活し、これを第65期司法修習生にまで遡って給付すべきである。


第2 決議の理由
 1 法曹は、我が国の司法を支える人的基盤・担い手であり、その職務は国民の権利義務に直接関わるものである。この法曹の職務の重要性・公共性に鑑みれば、法律実務家として高度の専門的知識と能力及び職業倫理を備えた質の高い法曹を養成することは、国の責務というべきである。
 当会はこれまで、2009年5月30日に適正な弁護士人口に関する総会決議を、2010年5月22日に司法修習生に対する給費制維持を求める総会決議を発したが、未だに法曹養成制度は改善されていない。そこで、以下のとおり、改めて本決議をした次第である。

 2 司法試験合格者数を1000人程度に減少させるべきこと
 (1)閣議決定された、法曹人口を5万人に、司法試験合格者数を年間3000人とする数値目標は、法曹の活動領域の拡大を前提にしていたものであるが、需要調査もされない何ら実証性のないものであった。
 (2)司法試験合格者数の数値目標については、具体的な需要を踏まえた検討をなすべきである。そのためには、まず、弁護士数の増減と訴訟事件数の増減を比較することをなすべきである。司法制度改革審議会が発足した1999年に1万6731人であった弁護士数が、2014年には3万5045人と、15年間で約2.1倍に増加している。一方、訴訟事件数は、むしろ減少傾向にある。
 (3)ところで、新人弁護士にとって、司法修習を終え資格を取得した後も、経験豊かな先輩弁護士の指導を受けながら実務を通じて研鑽を積むことが必要不可欠であり、質の高い法律実務家を養成するうえで極めて重要である。しかし、現在、弁護士人口の激増は、新人弁護士の就職難を招いており、その結果、実務を通じて研鑽を積む機会を得られない新人弁護士を多数生み出す状況となっている。
 (4)以上から、司法試験合格者数を一旦、1000人程度とし需要状況調査を実施したうえで、さらなる減員をする必要がある。

 3 法科大学院制度について
 (1)司法試験法4条1項1号によれば、法科大学院は、法曹に必要な学識及び能力を培うことを目的としている。そして、その制度設計において、司法試験合格程度の実力はもちろん旧制度における前期修習終了に代わる水準の養成を行うことを目的としていたものである。
 (2)ところが、現状の法科大学院においては、それらの目的から大きく乖離していると評価せざるを得ない。乱立による教育内容の格差、司法試験合格率の低迷、定員割れや募集停止の続出、志願者や入学者の著しい減少傾向などが認められる。法科大学院の現状から、法曹実務家を養成する機関として十全に機能しているとは到底いえない状況が続いている。
 (3)法科大学院適性試験受験者は、初年度である平成15年度は5万3,876人(複数の機関が適性試験を実施していたことから、重複受験があり得る)であったものの、以来、一貫して減少し続け、平成26年度には、4,091人まで減少した。2014年度司法試験においても、合格率50%以上の法科大学院は74校中2校にすぎない一方、合格率10%未満の法科大学院は29校に達している。そして、現在に至るまで、少なくとも22校が、学生募集の停止を表明し、または実際に停止し、もしくは廃止されるに至っている。
 (4)一方で、法曹志望者にとっては、法科大学院の修了には、相当な年数と多額の費用を要するものとなっている。したがって、法科大学院の修了を司法試験の要件とすることは、年齢的にも、経済的にも、法曹志望者のリスクを高めてしまい、有為な人材を他の方面へ放逐する結果となっている。したがって、多種多様な法曹志望者を幅広く受け入れ、法曹界に人材を確保するという観点からは、法科大学院修了要件をすべての受験生に課すべきではないから、法科大学院については、その終了を受験資格要件とすることから削除すべきである。

 4 予備試験制限について
 (1)司法試験予備試験は、法科大学院を経由しない者にも法曹への道を確保するという目的のもとに2011年から実施されている。
 (2)予備試験合格者は、2012年には司法試験合格者58名(合格率69・2%)、2013年には司法試験合格者10名(合格率71・8%)と、法科大学院修了者と比較して遙かに高い合格率となっており、予備試験の受験者も増加傾向となっている。
 (3)そのため、法曹養成制度改革顧問会議において、予備試験について、受験資格として資力が乏しいことや、社会人経験を要件とする案、一定年齢以上であることを要件とする案、法科大学院在学生には受験を認めない案が、対応方策として検討されている。
 (4)しかし、法科大学院の入学者激減、法科大学院卒業者の司法試験合格率低迷は、予備試験のあり方に問題があるからではない。法曹志願者に経済的、時間的負担を課し、法科大学院のない地域に居住する者や有職者の受験機会を阻害するなど大きな参入障壁となっている現行の法科大学院制度と、司法試験合格者を2000人以上出し続けた結果深刻な就職難を招来し、弁護士の収入減等による職業的魅力の低下の理由により、法曹志願者を質・量ともに縮小させていることが問題の本質である。したがって、予備試験に制限を加えても法科大学院の人気回復にはつながるものではない。
 (5)有為な人材を確保するためには、予備試験に対する制限は一切なすべきではない。

 5 受験回数制限撤廃について
 (1)新司法試験の実施の際に、当初は、受験資格取得後5年間に3回の回数制限が設けられていた。この点については、合格の自信のない受験生の受け控えの問題や、3回に制限することが受験生の減少につながるなどの批判もあり、3回の回数制限は撤廃された。しかし、受験資格取得後5年間という制限は残ったことから、結局、3回の回数制限が5回になったに過ぎない
 (2)しかし、そもそも受験回数制限を設けることに何らの合理は認められない。受験回数制限により、法曹志望者が減少することについては夙に指摘されているところであり、一切の回数制限を撤廃すべきである。

 6 研修所教育の充実強化について
 (1)かつて2年間であった司法研修が現在は1年間とされている。そのような制約のなかで、可能な限り充実した教育が模索されている。
 (2)しかしながら、当初構想されたように法科大学院教育と研修所教育との有機的連携も必ずしも成功しているとは言い難く、ましてや法科大学院教育をもって、研修所教育に替えられるものでもない。また、本年度から、導入修習が実施されてはいるものの、以前の前期修習とは比べものにはならない。
 (3)そこで、前期修習を速やかに復活させるとともに、修習期間の伸長も含め、研修所教育のさらなる充実強化を図るべきである。

 7 司法修習生への給費制について
 法曹志望者にとって、法曹資格を取得するための経済的な負担は非常に大きなものとなっており、仮に法曹資格を取得したとしても、一定の収入すら得ることができないというリスクの増加もあわせて考慮した場合、法曹となること自体を断念する要因の一つとなっている。給費制は、経済的に恵まれない者であっても修習に専念できる環境を保障するものであり、法曹界に優れた人材を確保して養成し、司法制度の円滑な運営を続けるためには司法修習生に対する給費制を復活することも、必要不可欠な施策の一つというべきである。給費制度を復活するにあたっては、貸与制が実施された司法修習第65期修習生に遡って給付すべきである。


2015年(平成27年)5月23日
栃木県弁護士会定時総会