栃木県弁護士会からのお知らせ

労働時間規制を緩和する労働基準法等の一部を改正する法案に反対する会長声明

1 政府は,平成27年4月3日,「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定し,国会に提出したが,当会は,これに強く反対する。

2 まず,本法案は,高度専門的知識を要し,業務に従事した時間と成果との関連性が通常高くなく(業務要件),年間平均給与額の3倍を相当程度上回る水準の年収要件を満たす(年収要件)労働者を労働時間規制の適用除外とする新制度(高度プロフェッショナル制度)を設けるとしている。この業務要件は,拡大解釈しうるものであるし,ひとたび新制度が導入されれば,年収要件は引き下げられるおそれがある。そのため,割増賃金の支払いによる長時間労働の抑制がきかない新制度対象労働者の範囲は,著しく拡大するおそれがある。そして,現行法上労働時間規制の適用がない管理監督者や,年収が1000万円を超えるような高所得者が,特に長時間労働を行う傾向が強いことにかんがみれば,新制度の導入が更なる長時間労働を助長しかねない危険性があることは明らかである。

3 また,本法案は,みなし労働時間を認める現行の裁量労働制のうち,企画業務型裁量労働制の対象範囲を拡大し,制度導入のための手続の簡素化を予定している。厚生労働省の平成25年度労働時間等総合調査結果によると,裁量労働制下の労働者は,実際にはみなし労働時間よりも長時間の労働をしていることが多いと報告されており,その傾向は過去のデータ(平成17年度)に比較して増悪傾向にあることが見て取れるのであり,裁量労働制の適用範囲の拡大につながる本改正は,この制度の適用を受ける労働者の長時間労働を招来する危険が高いと言わなければならない。

4 我が国では,労働基準法第32条において,労働時間の限度を1週40時間,1日8時間とし,同法第36条1項において,協定を行政官庁に届け出た場合に限り労働時間の延長を認めており,同法第37条において,超過労働時間に対しては割増手当を支払わなければならないとする労働時間規制を設け,長時間労働を抑止しようとしている。
 しかしながら,日本の長時間労働率は,諸外国と比べても高く,近年,長時間労働に伴う過労死や精神疾患等に関する労災補償請求件数は高水準で推移している。このように長時間労働が横行する原因は,現行法制度に,最長労働時間,拘束時間及び休息時間に関する規制が欠如していることであると指摘されている。我が国は,労働者の健康確保について深刻な状況にあるといえる。

5 このように長時間労働による労働者の健康悪化の状況は一向に改善せず,未だに過労死や過労自殺は蔓延しているのであるから、長時間労働の抑止こそ現在早急に取り組むべき課題であり,平成26年5月に過労死等防止対策推進法が全会一致で可決されたことからも,その取り組みが強く求められていることは明らかである。

6 よって,当会は,労働時間規制を緩和しようとする本法案に強く反対する。

2015年(平成27年)5月14日
栃木県弁護士会
会長 若狭 昌稔