栃木県弁護士会からのお知らせ

少年法の適用年齢の18歳未満引き下げに強く反対する会長声明

 与党自由民主党は、公職選挙法の選挙権年齢の引き下げに伴い、特命委員会において、少年法の適用年齢を18歳未満にまで引き下げる旨の少年法改正を検討し、今国会会期中にもその方向性が示されるとの報道がなされている。
 しかしながら、少年法の適用年齢の引き下げは、下記理由により断じてなされるべきではない。
1  法改正は実証的な根拠と証拠に基づきなされるべきこと
 少年法は、社会的に注目された特殊で重大な事件が発生するたびに、厳罰化という形の法改正が次々となされてきた。すなわち、2000年には16歳以上の少年が重大事件を犯した場合の原則逆送制度が導入され、逆送可能年齢が14歳以上に引き下げられたのを皮切りに、2007年、2014年の法改正により、その傾向が一段と進んできた。
 上記の厳罰化の流れは、少年犯罪の実証的な研究やエビデンスに基づいたものではなく、マスコミ報道や世論への迎合、ポピュリズムを背景にしたものであるが、今回の少年法の適用年齢の引き下げ問題も、同様の背景事情があるものと考えられる。報道機関の世論調査によれば、調査対象の8割程度の者が法改正に賛成であるとも報じられている。しかしながら、今回の法改正は18歳、19歳の非行少年全体にかかわる問題であり、今までの法改正以上に影響が大きく、より実証的な根拠と慎重な議論が必要というべきである。
 そのためには、立法機関は世論や情緒に流されるのではなく、家庭裁判所調査官、少年院や少年鑑別所職員、児童精神科医、教育関係者、付添人を担当した弁護士などの専門家の意見に十分に耳を傾け、非行少年の動向を裏付ける犯罪白書などの客観的統計資料を重視すべきである。このような方向での検討がなされるのであれば、今回の法改正に立法事実がないことは明白となる。


2 法改正が年長少年の更生や再犯防止を阻害する可能性があること
 現行の手続きでは、非行少年はすべて家庭裁判所に送致され、事件の背景や生育環境等について、心理学、教育学、社会学等の人間諸科学を駆使した科学的調査が少年鑑別所技官や家庭裁判所調査官によって行われている。その過程においては、少年に対する環境調整や働きかけが行われたうえで、その処分が決せられている。近年、少年や若者の犯罪が大幅に減少していることは、統計的資料から明らかであるところ、このような専門的かつ手厚い少年審判の手続及び少年院における処遇が、犯罪の芽を早期に摘み取り、少年の更生や再犯防止に有効に機能した結果と評価することも可能である。
 ところが、少年法の適用年齢が18歳未満に引き下げられれば、2013年の統計資料に基づけば、今まで家庭裁判所が取り扱っていた非行少年の約44・9パーセントが、家庭裁判所の手続きから除外されることになる。その結果、年長少年が家庭裁判所の手続きを経ずに、起訴猶予、罰金、執行猶予の刑事処分を受けることになる。特に窃盗事犯や薬物事犯などの場合、年長少年に対する刑事処分が有効に機能しないことも考えられ、刑事処分がかえって年長少年から教育や矯正の機会を奪ってしまう可能性があろう。だとすれば、保護処分ではなく、刑事処分がなされることによって、年長少年の再犯のリスクを高める恐れも懸念される。


3 公職選挙法の選挙年齢と連動させる必然性がないこと
 少年法が適用されるのは、その生育環境や資質に問題を抱えている犯罪を犯した少年やぐ犯少年である。したがって、少年法の適用の有無は、いかなる処分や働きかけをすることが、当該少年の更生や再犯防止に有用なのかという観点から考えるべきである。これに対し、選挙権の行使を18歳に引き下げるのは、若者の政治参加を促し、できるだけ早期に主権者として権利行使を可能にさせるべきとの価値判断から認められるものである。両者はまったく異なる立法目的に基づくものであり、何ら連動させなければならない必然性はない。また、成人年齢が問題とされる法律は200本以上あるにもかかわらず、少年法の適用年齢だけが突出していち早く議論されるのは是認できない。


4 家庭裁判所等関係諸機関の機能縮小
 少年事件が大幅に減少していることに加え、44・9パーセントもの少年事件が法改正により少年法の適用を受けないことになれば、家庭裁判所や少年鑑別所、少年院の機能やノウハウは様々な意味において、大幅に失われ、弱体化することになろう。そうなれば、18歳未満の非行少年に対する措置までが後退する危険性を秘めている。法改正がこのような結果を招いてしまうとすれば、「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」という少年法の立法目的が失われることになりかねず、本末転倒というべきである。

2015年(平成27年)7月23日
               栃木県弁護士会
               会長 若 狭 昌 稔