栃木県弁護士会からのお知らせ

指定廃棄物の「暫定集約案」についての意見書

2020(令和2)年5月28日
栃木県弁護士会 会長 澤 田 雄 二

第1 意見の趣旨
 1 国及び関係自治体は、指定廃棄物の暫定保管場所の選定、減容化の方法及び保管の方法等の決定にあたって、徹底した情報公開を行い、住民が意思決定に参加できる機会を確保するべきである。
 2 国及び関係自治体は、指定廃棄物の暫定保管場所の選定及び保管の方法等の決定にあたって、長期管理施設に搬出するまでの暫定的な保管であることを理由として、安全性を軽視してはならず、長期間の保管に耐えうる安全性が確保されるようにするべきである。
 3 国及び関係自治体は、指定廃棄物の暫定保管場所の運営にあたって、徹底した放射能濃度測定と情報公開を行うとともに、監視機関の設置など住民が運営に関与できる制度を設けるべきである。


第2 意見の理由
1 はじめに
 指定廃棄物の最終処分場建設問題については、その候補地とされた市町村において、激しい反対運動が生じている。栃木県内においても、当初候補地とされた矢板市において、次いで候補地とされた塩谷町において自治体ぐるみの反対運動が起こり、塩谷町における反対運動は現在も続いている。
 当会は、2013(平成25)年5月27日に日本弁護士会連合会が行った矢板市及び塩谷町の現地調査に加わったことを契機に、弁護士の使命である基本的人権の擁護と社会正義の実現の見地から、指定廃棄物最終処分場建設問題に取り組み、以後、指定廃棄物の保管場所の視察等の調査や研究を重ねた。そして、同年9月5日には、環境省の担当者や塩谷町長をパネリストとして招いた市民向けシンポジウムを開催して、この問題を議論した。
 また、後記3のとおり、2018(平成30)年11月に、環境省から、「暫定集約案」が提示された後には、改めて農業系指定廃棄物の一時保管置場や他県における指定廃棄物の保管状況等の現地調査等を行い、2019(令和元)年12月8日には、環境省の担当者や那須塩原市長をパネリストとして招いた市民向けシンポジウムを開催して、暫定集約案について議論した。
本意見書は、これらの調査(調査の内容は別表のとおり)、研究及びシンポジウムでの議論の結果を踏まえ、暫定集約案に対する当会の意見をとりまとめものである。

2 指定廃棄物最終処分場についての環境省の方針
(1) 指定廃棄物とは
 福島第一原子力発電所の過酷事故によって放出された放射性物質による環境汚染に対処するため、2011(平成23)年8月、議員立法によって、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「特措法」という。)が制定された。
 特措法17条1項は、「環境大臣は、・・・事故由来放射性物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないと認めるときは、当該廃棄物を特別な管理が必要な程度に事故由来放射性物質により汚染された廃棄物として指定するものとする。」と定めており、この規定によって指定された汚染廃棄物を「指定廃棄物」ということにしている(19条)。
 上記基準について、環境省令14条は、事故由来放射性物質であるセシウム134及び137の放射能濃度の合計が8000Bq/kg以下、としているので、指定廃棄物とは放射性セシウムの濃度が8000Bq/kgを超える廃棄物をいうと説明される。
 2019(令和元)年9月30日現在、指定廃棄物は栃木県内に1万3533.1tあり、福島県以外の都県では最も多く、稲わら、牧草等の農林業系の廃棄物が多い(8137t)のが特徴である。
 なお、環境省は、2020(令和2)年3月19日、農業系指定廃棄物のうち日光市、大田原市、矢板市、那須塩原市、那須町及び那珂川町の123の農家が保管している指定廃棄物2993.2tについて、同年7月下旬から11月上旬にかけて放射能濃度の再測定を行った結果を公表したが、それによると、2416.9tが8000Bq/kgを下回ったとのことである。

(2) 「処理の方針」による県内1箇所集約の方針
 特措法では、指定廃棄物は、国が、収集、運搬、保管、処分をしなければならないとされている(19条)が、処分を都道府県ごとに行うかどうかについては、特措法には具体的規定はなく、特措法7条に基づき、2011(平成23)年11月に閣議決定された基本方針で、「指定廃棄物の処理は、当該指定廃棄物が排出された都道府県内において行うものとする。」とされている。
 しかし、最終処分場を、都道府県内に1箇所だけ作るのか、複数箇所作るのかについての方針が決まるのは、2012(平成24)年3月に環境省が策定した「指定廃棄物の今後の処理の方針」(以下「処理の方針」という。)によってである。
 すなわち、「処理の方針」は、「既存の最終処分場による処分ができず、最終処分場を新たに建設する必要がある場合には、最終処分場の立地のための用地を確保しやすくする観点から、できる限り指定廃棄物が存在する市町村ごとに中間処理による減容化を行うこととし、また、その減容化の過程で10万Bq/圓鯆恐瓩垢觧慊蠻儡物が発生する可能性を考慮しつつ、国は、最終処分場を都道府県内に集約して設置することとする。」として、1箇所集約及び10万Bq/堋恐瓩了慊蠻儡物も含めて処分する方針を打ち出した。
 そして、最終処分場の設置場所については、「指定廃棄物の種類及び量、中間処理施設などの附帯設備の設置に要する土地の面積等を踏まえ、必要な規模、適切な斜度を有する土地の中から、土地利用に関する法令上の制約(自然公園特別地域、地滑り区域など)がなく、・・・自然的社会的条件が良い土地を抽出する。その後、現地調査などにより立地特性を把握した上で、最終的に国が立地場所を決定し、国の責任の下、最終処分場を設置する。」とし、「指定廃棄物の最終処分場の確保に係る工程表」において、2012(平成24)年9月末までに場所の選定を行い、2013(平成25)年8月には造成工事に着手するとした。

(3) 最終処分場候補地での反対運動
 「処理の方針」による都道府県1箇所集約化の方針は、各都道府県内において、市町村の対立や候補地とされた地域での反対運動をもたらし、かえって指定廃棄物の処分問題を遅らせることとなった。
 「処理の方針」に従い、最終処分場候補地の選定作業が進められ、同年9月、栃木県では矢板市塩田地区の国有林が、茨城県では高萩市上君田地区の国有林が、一旦、候補地として選定された。しかし、両市とも,極めて強力な反対運動によって地元への説明すら困難な状況となった。
 環境省は、同年12月の政権交代を機に、選定プロセスを大幅に見直すこととし、2013(平成25)年2月25日に「指定廃棄物の最終処分場候補地の選定に係る経緯の検証及び今後の方針」(以下「今後の方針」という。)を公表し、先の候補地選定を撤回し、以後、この「今後の方針」によって候補地選定作業を行うことになった。
 環境省は、「今後の方針」に基づいて、最終処分場候補地選定作業を進めた結果、塩谷町寺島入の国有林を詳細調査候補地として選定し、2014(平成26)年7月30日、塩谷町に対し、その旨通知した。
 塩谷町の高原山腹にある尚仁沢湧水は、環境省の名水百選にも選ばれ、町民にとって誇りである。その湧水群から4卍しか離れていない場所に、焼却施設を備えた指定廃棄物の最終処分場ができるということで、矢板市の場合と同様、町民一丸となった反対運動が起きている。
 そのため、最終処分場建設は進まず、公共施設や農家が、その敷地内に指定廃棄物を事実上保管しているという状態が続いている。


3 暫定集約案の実施にあたっての問題点
(1) 暫定集約案の提示
 環境省は、最終処分場建設の建設促進を掲げるものの、保管状況の強化の方針を取ることについては消極的であったが、2016(平成28)年2月には、「茨城県における指定廃棄物の安全・安心な処理方針について」を公表し、茨城県では分散保管を容認する姿勢を示すなど、態度を変化させ、同年3月には、「現地保管継続に当っての更なる安全の確保について」を公表して、現状保管の強化に努める方向性を打ち出した。
 そして、特に、農家がその敷地内で保管している指定廃棄物について、農家の負担軽減や、管理状態の強化を図る必要があるとして、環境省は、2018(平成30)年11月に、栃木県については、暫定集約案を示すに至った。
 暫定集約案とは、保管農家がある市町単位(又は広域処理組合単位)で、地元の意向を踏まえて、1ヶ所又は数ヶ所の暫定保管場所を確保し、必要に応じ焼却等の減容化をした上で集約するというものである。
 現在、その実現に向けての国と関係自治体との協議が始まっている。


(2) 暫定集約案の実施にあたっての課題
 前述の調査、シンポジウムの開催の結果、暫定集約案を実施するにあたっては、以下のとおり、様々な課題があることが明らかになった。
 〇団蟒弧鵑亮損椶砲△燭辰討両霾鷂開と住民参加
 まず、長期管理施設の候補地とされた矢板市及び塩谷町の例を見れば明らかなとおり、暫定集約案についても、新たに暫定保管場所を選定し、その運営をするにあたっては、住民からの強い懸念が示され、反対運動が起こることが予想される。
 矢板市及び塩谷町の場合、候補地が適地であるかどうか疑問があることに加えて、事前に住民らに計画が知らされることがなく、突然計画が示されるなど手続き上の不備があったことも、混乱が起きた大きな原因の一つであった。
 そのようなことを暫定集約案の実施にあたっても繰り返さないためには、以下のような措置が必要である。
 すなわち、保管場所の選定、減容化の方法及び保管の方法等の決定にあたっては、決定する前の段階から徹底した情報公開を行い、十分な説明を行って、住民らの疑問点に対しても適切に対応し、その内容の当否も含めて住民らの意見を適切に反映することができるよう、意思決定に際して広く住民が参加できる制度を設けることである。
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 暫定集約を実施する予定であるからといって、現状の保管の安全性がおろそかにされてはならないことは言うまでもない。
 また、暫定集約案では、長期管理施設に搬出するまでの暫定的な保管であることが強調されており、短期間の保管に耐えうるだけの安全性が確保されれば、それで十分であるとされて、管理に必要な安全性が軽視される懸念がある。
 長期管理施設の整備には相当の期間を要する見込みであり、現状の保管では安全性が懸念されることが暫定集約案の発端であるから、長期間の保管にも耐えうる十分な安全性が確保されなければ、本末転倒である。
 したがって、国及び関係自治体は、暫定保管場所の選定及び保管の方法等の決定にあたって、長期管理施設に搬出するまでの暫定的な保管であることを理由として、安全性を軽視してはならず、長期間の保管に耐えうる安全性が確保されるようにするべきである。
 暫定保管場所の運営にあたっての情報公開と住民参加
 暫定保管場所の運営については、保管や減容化を行うにあたって、施設外に放射性物質が排出されないか、住民に懸念、不安が生じることが予想される。
 そのような住民の不安、懸念に対処するためには、以下のような措置が必要である。
 まずは、住民の意見を踏まえて、徹底した敷地内の放射能濃度測定と情報公開を行うべきである。
 そして、実効性のある住民参加を保障すべきである。具体的には、住民代表や住民の推薦する専門家が委員の半数を占め,議事が必ず公開される等の要件を備えた第三者的立場に立つ監視機関を設置し、施設の管理状況や放射能濃度測定、情報公開のあり方を監視させるなど、住民が運営に関与できる制度が設けられるべきである。


4 結論
 よって、国及び関係自治体に対し,意見の趣旨どおりの措置を採ることを求める。

以上