栃木県弁護士会からのお知らせ

少年法改正法成立を受けての会長声明

1 はじめに
 令和3年5月21日,「少年法等の一部を改正する法律」(以下,「改正法」という。)が参議院で可決され,成立した。その内容は,令和2年10月29日に法制審議会少年法・刑事法部会が採択した答申に従ったものである。答申では,18歳及び19歳の者が「類型的に未だ十分に成熟しておらず,成長発達途上にあって可塑性を有する存在である」ことを確認した上で,「刑事司法制度において20歳以上の者とは異なる取扱いをすべき」とし,本改正法案においても,18歳及び19歳の者を少年法の適用対象とした点は評価できる。
 しかしながら,改正法は18歳及び19歳の少年を18歳未満の少年とは異なる取扱いをする旨定めるものであり,以下に述べるような問題があり,当会は改正法に反対の立場であるが,改正法が成立した以上は,18歳及び19歳の者に対しても,引き続き,少年の健全な育成を期する少年法の目的に合致した適正な運用を行うよう,政府及び裁判所に求めるとともに,個別の事件における弁護人・付添人活動を一層充実させるために必要な体制整備等の取組を進める決意である。

2 いわゆる原則逆送事件の拡大
 改正法は,行為時に18歳及び19歳の者について,いわゆる「原則逆送」とする事件の対象に「短期1年以上の刑の罪に当たる事件」を追加した。
 改正法で拡大される事件類型は,強盗罪など犯情の幅が極めて広いものが含まれている。かかる事件類型の多くの事例について,現行少年法では家庭裁判所が,当該18歳及び19歳の者の犯行に至る経緯,動機,態様,結果,育成歴,養育環境及び本人の資質上の問題点等に関する家庭裁判所調査官及び少年鑑別所の鑑別結果さらには付添人の意見を踏まえて,当該18歳及び19歳の者に対して,保護観察処分あるいは試験観察処分あるいは少年院送致処分等の適切な処遇を選択して更生につなげてきたのである。
 それにもかかわらず,改正法では,逆送後の18歳及び19歳の者に対して,適切な指導や環境の調整など更生の機会を保障する規定は存在しない。
 そのため,生育歴や家庭環境や本人の資質などから要保護性の高い18歳及び19歳の者が,本人の問題点等について何らの手当もされないまま社会復帰してしまい,本人の更生の機会を奪うだけでなく,再犯防止の観点からも逆効果である。
 そうだとすれば,拡大された原則逆送対象事件に関しては,家庭裁判所において,対象者の要保護性につき十分な調査を行った上で,犯情の軽重のみならずこれまでと同様に要保護性についても十分に考慮して逆送の当否を慎重に判断すべきである。この点については,参議院法務委員会の附帯決議にも明記されたところである。

3 推知報道禁止の解除
 改正法は,18歳及び19歳の少年がその時犯した罪により,公訴提起された場合には,推知報道の禁止を解除するとしている。
 現行少年法61条は,「家庭裁判所の審判に付された少年」だけでなく「少年の時に犯した罪により公訴を提起された者」に関する推知報道をも禁止している。
 このように,現行少年法61条が,少年に関する推知報道を広く禁止した趣旨は,少年及びその家族の名誉・プライバシーを保護して,過ちを犯した少年の更生を図ることにある。
 近年,SNSを含むインターネットが普及・発達した現代においては,インターネットにおいていったん推知報道の内容が取り上げられれば,一瞬にしてこれが拡散され,半永久的に残り続ける。18歳及び19歳の者に対する推知報道が解禁された場合,それらの者は,周囲から好奇や偏見の目に晒され続けることとなり,社会復帰に向けた教育,職業,家族の援助等の重要な社会資源を失う可能性もある。
 そうだとすれば,推知報道については,少年の健全育成及び更生の妨げにならないように十分に配慮し,事案の内容や報道の公共性について慎重に検討するべきであり,この点についても,衆議院及び参議院の法務委員会で附帯決議がなされているとおりである。

4 18歳及び19歳の少年を「ぐ犯」少年の適用対象から除外
 改正法は,犯罪には該当しない18歳及び19歳の「ぐ犯」少年を少年法の対象外とする。少年が,虐待や貧困などにより,社会的に弱い立場に置かれると,その環境に強く影響され,つい非行に近づいてしまうことがある。現行少年法が,犯罪には該当しない「ぐ犯」少年をもその対象にするのは,例えば,捜査機関が「ぐ犯」を理由に介入し,家庭裁判所の保護処分によって少年を非行から遠ざけるなど,少年に対する福祉的・教育的機能を果たすためである。
 今後は,少年,若者に対する切れ目のない支援が行われるよう,問題を抱える18歳及び19歳の者に必要な福祉的な支援が強化されるべきである。

5 総括
 したがって,改正法は,18歳及び19歳の少年について,18歳未満の少年とは異なる取扱いをする旨定めるものであって,上記の他にも多くの問題があり,当会としては反対の立場である。
 現行少年法に基づく手続及び保護処分が有効に機能していることは法制審議会でも異論のないところであり,改正法の下でも18歳及び19歳の少年に対して,少年の健全な育成を期する少年法の目的に合致した適正な運用を行うよう,政府及び裁判所に求めるとともに,個別の事件における弁護人・付添人活動を一層充実させるために必要な体制整備等の取組を進める決意である。
以 上

2021年(令和3年)6月24日
栃木県弁護士会
会長 横堀 太郎