栃木県弁護士会からのお知らせ

最低賃金の大幅な引き上げを求める会長声明

 中央最低賃金審議会は、昨年は、全国加重平均31円の引上げを答申し、その結果、栃木県の引き上げ額は31円であり、最低賃金時間額は913円に改定された。
 栃木県における最低賃金時間額913円という水準は、1日8時間、週40時間働いたとしても、年収約190万円,月収にして約15万9000円にしかならず、ここから税金、年金や健康保険料等を支払うのであるから、この金額では労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは困難である。
 我が国の相対的貧困率は依然として15.4パーセント(2018年)と高止まりであり、貧困と格差の拡大は性別や世代を問わず深刻化している。働いているにもかかわらず貧困状態にある者の多数は、最低賃金付近での労働を余儀なくされており、最低賃金の低さが貧困状態からの脱出を阻む大きな要因となっている。
 2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」では、2020年までに最低賃金時間額を全国加重平均1000円(以下、「時給1000円」という)にするという目標を定めていた。2021年5月14日には菅内閣総理大臣(当時)も最低賃金の引き上げは不可欠だとして、より早期に時給1000円とすることを目指して取り組む考えを強調した。2022年の最低賃金の全国加重平均は961円であり、1000円という目標に近づけるには、最低賃金の大幅な引き上げが必要である。ことに、本年は、岸田内閣総理大臣自身が3月の政労使会議や記者会見において時給1000円を目指すことを強く強調している。
 さらに、物価の上昇傾向は続いており、2023年5月分の消費者物価指数(2023年6月23日総務省統計局公表)における総合指数は前年同月比3.2%の上昇である。ライフラインに関する料金も価格が上昇しており、たとえば東京電力は、一般家庭で広く提供されるプラン(従量電灯)に関係するところの規制料金については、2023年6月1日から、平均15.90%の値上げを実施することを公表している。物価の高騰は最低賃金に近い給与水準で生活している労働者ほど影響が大きく、生存権が脅かされる事態さえ招きかねない。労働者の生活を守り、物価の高騰に向き合いながら、経済を活性化させるためにも、最低賃金額を全国加重平均時給1000円以上とすべく大幅な引き上げを図るべきである。
 一方、最低賃金の引き上げによって経営に大きな影響を受ける中小企業に対しても、物価高騰に対する支援策と併せて、長期的かつ継続的な中小企業支援策を強化すべきである。

2023(令和5)年7月3日
栃木県弁護士会会長 山下雄大