栃木県弁護士会からのお知らせ

司法予算の大幅増額を求める会長声明

1 2001年に出された司法制度改革審議会意見書は、この司法制度改革を実現するために、裁判所等の人的物的体制を充実させ、司法に対する財政面の十分な手当が不可欠であるとし、政府に対して、必要な財政上の措置について、特段の配慮を求めた。ところが、その後の司法予算(裁判所予算)は、裁判員裁判対策の点を除けば減少を続け、国家予算に占める割合は概ね0.3%台で推移している。日弁連は、2010年3月、裁判官増員を訴えるとともに、裁判所予算のほとんどは裁判官等の人件費といわれていることから裁判所予算の大幅増加を訴えたが、司法予算の減少に歯止めはきかなかった。2014年度予算は約122億円の増額となっているが、東日本大震災に対処するためなどの目的で国家公務員の人件費を削減するため成立した国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律(2012年2月29日成立)の失効に基づく人件費の増額分約171億円を含んだものであるから、実質的には約49億円の減額である。
 このような政府の措置は、意見書が求めた財政上の特段の配慮を、政府が怠ってきたことであり、国民の裁判を受ける権利(憲法32条)を実質化する責務を果たしてこなかったと評されるものである。政府が、「安全安心な社会」を目指すのであれば、国民の身近にあって、利用しやすく、頼もしい司法を全国各地で実現すべく司法予算の増大を図らなければならない。

2 近年、家事事件は一貫して増加し、調停事件は多様化、複雑化が進み、面会交流事件でも難しい事件が増加している。成年後見事件の激増は誰の目にも明らかである。裁判官や書記官は本来自ら行うべき申立内容の確認や後見業務の打合せなどを参与員に依頼するなど、多忙を極めている。裁判官及び書記官、職員などの人的側面、裁判所のバリアフリー化(エレベーター設置等)、調停室・待ち合わせ室等の増設や支部、出張所の新設など物的側面について抜本的強化が必要である。
 家庭裁判所関連の予算については、飛躍的な拡充が必要不可欠である。

3 一方で、家庭裁判所以外の裁判所等の予算が減少に転じていることも問題である。なるほど、消費者金融事件・破産事件の減少等によって、地方裁判所などの取扱事件数は減少している。しかしながら、元々裁判官の勤務の過酷さは異常な状態であり、事件数の減少があったとしても、その異常さが解消されるほどまでには至っていない。そのために、過払い金返還請求事件など定型の訴訟を除き、審理時間は逆に長期化しているものもある。2014年3月に開かれた衆議院法務委員会において、最高裁判所長官代理者は、裁判の質を高めつつ一定の期間内に審理するため、2012年時点で裁判官約400人の増員を要する旨答弁している。また、書記官や職員への権限の大幅委譲がなされているため、書記官・職員の繁忙さは増加の一途となっている。
 地方裁判所等の予算について現在も大幅な増加が必要な状態は変わっていないのである。
 各地で強い要望が上がっている労働審判を実施できる支部の拡大など、国民の強い要望のある基盤の整備を必要とする点も少なくない。

4 国家財政が悪化している現状においては、司法予算を大幅に増加することは難しいとの意見がある。しかし、もともと、司法予算があまりにも小さかったため、司法の使い勝手が悪く、その改善を図るべく、小さな司法から大きな司法を目指し、司法制度改革審議会意見書の提言がなされたのである。国民の裁判を受ける権利の実質化・充実化のためには、国家財政の増減にかかわらず司法予算の増加を図らなければならないはずである。最高裁判所においても、限られた予算の範囲でやりくりするのではなく、今よりはるかに多い司法予算が必要であることを社会に向かって大きく訴えるべきである。

5 栃木県に限ってみても、宇都宮地方・家庭裁判所において合議体が構成できるのは本庁と栃木支部のみであり、労働審判は宇都宮地方裁判所本庁のみで行われている。宇都宮家庭裁判所においては、真岡支部と大田原支部では少年事件を扱っておらず、その支部管内の少年事件はすべて本庁において審判され、家事専任裁判官が本庁にはいるが支部にはいない。
 このように、宇都宮地方・家庭裁判所の足利・真岡・大田原の各支部において合議体を構成できない、真岡支部及び大田原支部にて少年事件を扱わない、労働審判を各支部で扱わないことの主要な要因は、当該支部裁判官数が3名以上在籍していないためであるなど、司法の人的側面の充実が不十分な点にある。
 なお、裁判官が3名在籍する宇都宮地方・家庭裁判所栃木支部においても、2012年度の新受件数が、一般民事事件264件、刑事事件259件、家事事件2238件(人事訴訟34件含む)及び少年事件439件を、3名の裁判官のみで対応することは、国民の裁判を受ける権利の実質化・充実化を十分に果たせない。そして、3名の裁判官が在籍する宇都宮家庭裁判所本庁においても、2012年度の新受件数が、家事事件5118件(人事訴訟104件含む)及び少年事件1205件を、裁判官3名で対応することは、やはり国民の裁判を受ける権利の実質化・充実化を十分に果たせない。
 家事事件数の増加に対応して円滑な家事調停がなされるためには調停室や待ち合わせ室の増設等の拡充が必要であり、高齢化社会に対応して裁判所利用者の利便性を向上するためにはエレベーター設置等のバリアフリー化が必要であるが、支部において調停室や待ち合わせ室の増設などの物的拡充はあまり見られず、しかも2階建て建物である大田原支部、真岡支部そして小山簡易裁判所にはいまだエレベーターが設置されていないなど、司法の物的側面は今なお不十分なままである。
 したがって、栃木県内の司法サービスは不十分なままであり、司法サービスにおける人的物的施設の拡充実現のためにも、司法予算の大幅増額が必要不可欠である。

6 折から、2015年度予算の概算要求が検討される時期を迎えるが、最高裁判所においては、大幅な司法予算の増額を要求すべきであり、財務省あるいは政府においては、それを受けて大幅な司法予算の増加を認めるべきである。

2014(平成26)年8月28日
栃木県弁護士会
会長 田中 真